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東京家庭裁判所 昭和42年(家イ)2753号 審判 1967年7月19日

国籍 大韓民国 住所 東京都

申立人 山本令子こと曽令子(仮名)

国籍 大韓民国 住所 申立人に同じ

相手方 山本政一こと曽烈千(仮名)

主文

当事者間において昭和二八年二月九日東京都大田区長に対する届出によつてなした婚姻を取消す。

理由

一  申立人は主文と同旨の審判を求め、その事由として述べるところの要旨は、

申立人は東京都大田区○○町二△八番地(群馬県太田市大字○△三九一番地より昭和二六年一〇月一一日転籍)に本籍を有した元日本人女子であり、相手方は朝鮮慶尚北道善山郡○○面○○△四△五番地に本籍を有する韓国人男子であり、申立人は昭和二〇年一二月頃、相手方と知り合い、昭和二一年四月一五日から相手方と事実上の夫婦として肩書住所に同棲し、その間に昭和二三年九月一日に長男一夫を、昭和二八年一月七日に二男二郎を、それぞれ儲け、(相手方は昭和二八年三月三一日前記二児をいずれも認知届出をしている)、昭和二八年二月九日東京都大田区長に対し正式に婚姻の届出をなし、次いで申立人は右婚姻により大韓民国の国籍を取得したので同年四月一七日付告示により日本国籍を離脱し、以来、相手方と今日まで法律上の夫婦として同居生活をしてきたのであるが、最近に至つて相手方は、これより先檀紀四二七六年(昭和一八年)四月一日に本国において権内清と婚姻しており、申立人との婚姻は重婚であることが判明したのでその取消を求める次第である。

というにある。

二  本件調停委員会の調停において、当事者間に主文と同旨の合意が成立し、かつ、前記原因たる事実に争いがないので、当裁判所は必要な事実を調査したところ、当裁判所昭和四二年(家)第五〇八五号戸籍訂正許可事件記録中の申立人の除籍謄本および相手方の戸籍謄本、申立人および相手方の外国人登録済証明書、申立人に対する審問調書並びに当事者双方に対する審問の結果を総合すると前記事実をすべて認めることができる。

三  ところで、日本国法例第一三条第一項によると、婚姻成立の要件は、各当事者につきその本国法によつて定まるから、申立人については、本件婚姻当時の本国法たる日本国民法を適用すべく、同法第七四四条および第七三二条によれば重婚は取り消すことができるものとされ、また相手方については相手方とより密接な関係にある本国法たる大韓民国民法によるべきところ、本件婚姻成立当時同国には、まだ婚姻に関し明文の規定はなく、旧来の慣習に委ねられていたと認められ、それによれば重婚は取消をまたず、当然無効とされていた。ところが檀紀四二九三年(昭和三五年)一月一日から施行された大韓民国民法第八一六条第一号および第八一〇条によると、重婚は婚姻の取消事由となり、しかも同法付則第二条本文によると、同法には遡及効が認められ、また同法付則第一八条第一項によれば、同法施行日前の婚姻に取消事由があるときは同法の規定により取り消しうるものとされているから、同法施行日前になされた重婚で、今日までなお重婚状態が継続しているものについては、同法を適用して取り消しうるものと解するのが相当である。この点につき、同法付則第二条但書が同法の遡及効の適用を制限し、「既に旧法によつて生じた効力に影響を及ぼさない」と規定しているのを論拠として、同法施行日前になされた重婚は慣習により当然無効とされていたのであるから、同法施行後も取消の対象とはなりえないとの見解があるが、同法第八一六条が婚姻の取消事由として掲げているものは、旧法当時においても、取消事由とされていたものであるか、或いは無効事由とされていたものであつて、新たに取消事由とされたものは一つもないのであるから、若し前記の如く旧法によつて当然無効の婚姻は新民法によつて取り消すことができないとの見解をとるときは、同法付則第一八条第一項は少くとも婚姻の取消に関しては、全く無意味な規定となつてしまうのであつて、かかる解釈は、同法が付則第一八条第一項をわざわざ設け、同法施行日前になされた婚姻に取消事由があるときは、同法の規定により取消しうると規定した趣旨を正解したものとはいい難く、当裁判所はかかる見解に賛同することはできない。かくして大韓民国民法においても、新民法施行前になされた重婚が同法施行後の今日まで継続している場合には、同法を適用して取り消しうるものと解されるから、結局本件婚姻は、当事者双方の本国法によつて、いずれも取り消しうる場合に該当する。

よつて、当事者間における前記合意は、相当と認められるから、調停委員岸本理三郎、同芝田幸子の各意見を聞いたうえ、家事審判法第二三条第一項を適用して主文のとおり合意に相当する審判をする次第である。

(家事審判官 沼辺愛一)

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